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【春の霞】 |
3月に入ると、桃の節句、啓蟄(けいちつ)、お彼岸と、日をおって次第に春めいてきます。山間(やまあい)や海上にはどこからともなく帯状の薄雲がたなびき、路上では土や植物の活き活きとした匂いが、鼻をくすぐるようになります。古くより詩歌の上では、このたなびく雲を、春は「霞」、秋は「切り」と区別
し、霞は春を表す言葉として詩に詠まれてきました。
みわ山をしかもかくすか春霞
人にしられぬ花やさくらむ 素 性(古今和歌集)
(春の霞は三輪山をこうまでかくすことか。
きっと人にしられぬ花がさいていることであろう。)
見えそうで見えない山間に、暖かな陽を浴びて潤う花々を想像する情景が目にうかびます。霞は植物の力強い生命力も人間のたくましい想像力も包み込み、やんわりとした穏やかさをいっそう深く感じさせてくれるのです。
月末には、ぼつぼつ桜の便りも聞かれるようになります。雛祭りのお祝い、桜の花見など春の行事も大いに楽しみたいものです。