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【文学する料理】 |
日本で料理の文化がいっぱんてきに根付いたのは、江戸時代。宝暦・天明のころといわれます。この当時、『豆腐百珍』という珍本があったことをご存じでしょうか。
この本は、料理人が料理人のために書いたものではなく、また、いわゆる家庭料理のものとも違います豆腐ひとつを題材に幾種類もの料理法と、そのランク付けがあるという面白いものです。作者は江戸時代の知識人。文学的な要素が強い、料理で楽しむための本なのです。
この『豆腐百珍』には、正統あわせて二百三十八種もの料理法があります。その内容は、奇をてらったものはすくなく、ただ、今の感覚から云わせると、いかにも手間と時間をかけた料理法が多いことに気が付きます。まるで「できあがりの味を云々するだけが料理ではない。作る過程にこそ味わいがあるのだ」と江戸の人が主張しているかのようにも思えてくるほどです。
文学する料理は、遊びや無駄と思われるものにこそ「文化」があるのだと教えてくれます。