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【簾の隙間】 |
日本の夏に涼を演出してくれる「簾」は、『万葉集』の時代よりあったと伝えられています。
君待つと 我が恋ひをれば 我がやどの
簾動かし 秋の風吹く 詠み人 額田王(ぬかたのおおきみ)
あなたがお出になるのを今か今かと待っておりますと、私の家の簾を動かして秋の風が吹きすぎてゆきます。簾が風に揺れただけで、あなたがいらっしゃったのかと「はっ」とする。あなたを慕うあまり、一時も安らぐ暇がないのです…。
「簾」は草の茎や細い竹を編んだ敷物を垂らした、空間演出の道具立てです。「すだれ」の「す」は、「隙間」の「す」のこと。簾の隙間は、内側からは明るい外を見せ、外からは暗い家の中を目隠しします。見えそうで見えないというもどかしさ、間接的な効果をうみだす空間具となり、季節を感じさせる実用品としても愛されてきました。「御簾」越しに恋い慕う人のことを詠んだ額田王。彼女の寝間には一体どんな「すだれ」が掛かっていたのでしょうか。