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【春の馬酔木(あしび)】 |
ほんわか陽気に誘われて、森の中を散歩する。卯月。どこからかしら、冬にはなかった、嗅覚をくすぐる、甘い、蜜の薫り。みわたすと、スズランによく似た小花を、木から溢れんばかりに垂れ咲かせている、たわわの馬酔木。
万葉時代を代表するこの木は、馬や鹿がこの葉を食べると、しびれたようになるといって、「ウマ酔いの木」という文字があてられた。「馬酔木の森」というのが、奈良公園の原生林、春日飛火野辺りにある。普段なら、木々の新芽を食べる公園の鹿たちでさえ、馬酔木だけは食べることがなく、自然と繁茂して、この森が成長してしまったというのだ。
その、甘く、可憐で、愛おしい姿の内には、毒。このギャップが、ますます五感を刺激するのかもしれない。
そしてまた、甘い薫りを風に乗せ、春の小道を楽しませてくれるのだ。