2003年【神無月号】
vol.36

 博多の総鎮守櫛田神社では、赤ちゃんを抱いてお宮詣りに来ている人たちによく出会います。
 最近は若い父母に両方の祖父母までついてきて、家族愛あふれる参拝風景です。
 生後一ヶ月も経つと、もう赤ちゃんを外に連れ出しても大丈夫。まず氏神様にお参りし、氏子の一員になったご挨拶をし、すこやかな成長をお祈りします。最近では氏子意識はうすれましたが、子供の恙無い成長を祈る親心は、いつの時代も変わりません。
 新生児の死亡率が高かった昔はなおさらのことです。お宮詣りの日までに様々な儀式があり、母親と赤ちゃんの無事を念じました。
 新生児はまずハクランというおむつのような布にくるみました。生後三日目を「三ッ日」「袖つなぎ」「産着着せ」などといい、この日に初めて袖のついた着物を着せました。それまで産神に預けていた赤ちゃんが初めて人間の扱いを受けることを意味しています。博多ではこの日に命名をし、赤ちゃんの名を用紙に書いて産室の壁に貼りました。
 七日目はお七夜で、家族で小宴をひらきました。全国的にはお七夜に命名するところが多いようです。母親のからだも回復し赤ちゃんも一安心という時期です。病院での出産がほとんどの現在では、七日ぐらいで退院という所が多いようです。
 十一日目に床上げをします。この日里方紅白の大きな饅頭と末広地紙の蒲鉾それに小饅頭が贈られますので、これを近所に配ります。家でお産をしていた頃は助産婦を呼んでお礼の宴をしました。床上げといっても、本格的に動けるのは二十一日経ってから。母親は軽い仕事から慣らしていきました。
 こうして一月。母子ともに健康にお宮詣りの日を迎えるのです。ご近所にも挨拶し、赤ちゃんのお宮詣り着物の紐に「ひも銭」を結んでもらいます。


肩のところにお金を半紙に包んだひも銭結びます。 
【文人墨客】
 肌をなでる風もいよいよ秋の気配を深めました。夏の疲れを癒してくれる虫の声、褐色を帯びる木々の様。季節はいよいよ侘びて、寂なる日々を迎える準備を始めます。
 先日、「ブンジンボッカク」という大人の遊びがあることを教えていただきました。詩や筆墨に親しみ、南画の山水を描き、琴を弾いては心身を音楽にゆだねるといった風雅に興じることを言うのだそうです。
 この文人墨客の遊びにお茶が結びついて発達したのが煎茶道です。江戸時代、「普段のお茶をもっとおいしく飲むにはどうしたらいいだろうか」と考えた人々が、遊びの中から発達させた芸道です。担い手の中心にいたのは、『雨月物語』の上田秋成や歴史学者の頼山陽といった文人たち。そのせいか、煎茶道には文人趣味が色濃く残されています。
 詩を読み、画を描き、茶を飲む。ふだんの生活には縁のない遊びだと思いながらも、時には慌ただしい毎日に句読点を打つつもりで興じてみるのもいいかなと思います。

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