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【一絃の琴】 |
博多出身の那珂太郎さんの詩碑が、沼津の大中寺に建てられたということで、お祝いの会に参加してきました。そこで初めて耳にしたのが一絃琴の音色です。指に弾かれ、ゆるやかに舞う音に、心の奥を擽られるような深い暖かみを覚えてきました。
一絃琴は、一枚の板の上に一本の絃を張っただけの、極めて素朴な楽器です。平安初期、在原行平が須磨に流されたときに奏したことに由来し、須磨琴と呼ばれるようになりました。江戸時代には文人墨客の間に愛好されましたが、戦後は西洋音楽などに押され、演奏できる人もほとんどいなくなってしまったといわれています。
会で演奏してくださったのは、那珂さんの奥さまでした。琴の音は派手ではないのですが、紡ぎ出される繊細な響き、淡々とした味わいが、聞く人の心をとらえては離してはくれませんでした。
この素朴な楽器は、弾き手のすべてを現すのだと思いました。奥さまの琴の音は、今も印象深く耳の奧に響いてきます。